帯域と出来事を先に分ける
ボーカルの3.5kHz付近が痛いという言葉には、別々の二つの問題が含まれている。録音全体が細く攻撃的なのかもしれないし、いくつかの母音や子音だけで共鳴が飛び出すのかもしれない。前者なら固定EQの方が正直な答えだ。後者で帯域を常に削れば、問題のない音節の明瞭さまで失う。プロセッサーを選ぶ前に「この周波数が悪いのか、この周波数で時々起きる出来事が悪いのか」を問いたい。
FabFilterの公式ドキュメントは、その違いを明確に説明している。通常のダイナミックEQはトリガーに応じてバンド全体のゲインを動かす。Pro-Q 4のSpectralモードは、同じバンド内でもしきい値を超えた特定の周波数だけに反応し、ほかの周波数はそのまま残す。画面にはひとつのベルが見えても、内部では責任範囲が細かく分かれる。狙いは大きく削ることではなく、修正の不要な素材を動かさないことだ。
最も耳障りな音節だけをループして始めない。その音節と前後の正常な言葉を一緒にループし、まず固定ベルで候補帯域を探す。2〜3dBを常に削ってすべてのフレーズが良くなるなら、スペクトラル処理は不要かもしれない。耳障りな瞬間は良くなる一方で普通のフレーズが後ろへ下がるなら、ベルをゼロへ戻し、小さな負のダイナミックレンジでSpectralモードを試す。この順番なら、機能より診断が先に立つ。
最初の判断はソロではなく文章の中で行う。子音が滑らかになっても、単語の前面が遅れて開いたり、息やルームノイズが相対的に前へ出たりすれば処理が深い。ボーカルをインストゥルメンタルへ戻し、問題の音節の次にある単語まで聴く。良い設定は耳障りな出来事だけを下げ、その後に続く言葉の速度や表情を変えない。
Densityは精密さの勲章ではなく責任範囲だ
Spectral Densityという名前は、値が高いほど高度で正確だと思わせやすい。しかしマニュアルの定義は優劣を示していない。低い値では比較的広い周波数領域が一緒に反応し、高い値では反応する領域がより狭く個別になる。つまりDensityは解像度の点数ではない。ひとつの問題を広い塊として扱うか、細い出来事の集まりとして扱うかを決める境界だ。
広く散る歯擦音を非常に高いDensityで分割すると、多数の細いリダクションが素早く出入りし、表面が細かく震えることがある。逆にギターのひとつの狭い共鳴を低いDensityで扱えば、周辺のピックアタックや倍音まで一緒に沈む。BGCでは初期値から始め、あえて両端を聴く。低い側で音節全体が暗くなる地点と、高い側で質感が粒状に崩れる地点を知ると、使える中間が見つかりやすい。
Autoモードでは、入力音に基づいてthreshold、attack、releaseが自動で設定され、拡張パネルから手動調整もできる。自動だから完成値とは限らない。まずダイナミックレンジを1〜2dB程度に小さく制限し、問題のある三つの区間と、問題のない三つの区間を交互に聴く。正常な区間でもゲインリダクションが動き続けるなら、thresholdより先にバンドの位置と幅を疑う。誤った対象を高度な検出器で補えば、間違いが複雑になるだけだ。
手動のattackとreleaseは、メーターの形ではなく発音の時間で決める。attackが速すぎれば子音の始まりが鈍り、遅すぎれば耳障りな前半が通過する。releaseが長すぎれば次の母音まで暗くなり、短すぎれば共鳴の尾が二度跳ねるように聴こえる。ボーカルなら歌詞を見なくても単語が同じ速度で届くか、ギターならピッキング後のサステインがひと息で続くかを基準にしたい。
リニアフェイズは無料ではない。セッション内で判断する
Pro-Q 4はSpectralバンドにリニアフェイズ処理を自動で使う。ほかの通常バンドは下部で選んだ処理モードを維持できる一方、スペクトラル・バンドには別のProcessing Resolutionが付く。公式マニュアルは、解像度を上げるほど低域の処理能力とともにレイテンシーが増え、リニアフェイズ処理にはプリリンギングの可能性もあると説明する。Spectral Dynamicsを有効にした瞬間、判断対象は周波数曲線から時間軸まで広がる。
高域の耳障りな箇所を扱うとき、反射的に高い解像度を選ぶ必要はない。FabFilterは1kHzより上のスペクトラル処理では、通常LowまたはMediumで十分だと案内している。歌手がモニター中だったり、ソフトウェア音源をリアルタイムで演奏したりするセッションでは、その差は仕様表ではなく演奏の反応として返ってくる。複数のインスタンスを重ねる前に、実用上最も低い解像度で問題が解決するかを確認する。
比較は三段階で行う。まずプラグインのbypassで、問題区間と正常区間を同じ出力レベルのまま往復する。次にドラム、リードボーカル、攻撃的なシンセなど、トランジェントの明確な周辺要素も一緒に再生し、前面が変わっていないかを聴く。最後にプラグイン画面を閉じ、曲を最初から最後まで通す。アナライザーの滑らかな線より、コーラスに入ったときも声が前へ歩いているかが重要だ。
スペクトラル・ダイナミックEQがうまく働くと、その存在は目立たない。耳障りな瞬間が劇的に消えた印象より、修正のために別の瞬間が犠牲にならなかった印象が残るべきだ。そうならなければDensityやrangeを深くする前に、クリップゲイン、編集、マルチバンド・コンプレッション、単純な固定EQの方が小さな代償で解決できないか比べる。精密さは使用量ではなく、演奏のどれだけを手つかずで残したかで測りたい。